薬学部と聞くと、少し前までは
「安定していそう」
「資格が強そう」
そんなイメージが強かったのではないでしょうか。
でも最近は、薬学部の人気低下と言われることが多くなっています。
志願者は減り、定員割れは広がり、ついには募集停止を出す大学まで出てきました。
とはいえ、これは単純に
「薬学部はもうダメ」
という話ではないんですね。
人気低下の裏には、学費、国家試験、就職観、地域格差、大学経営など、いくつもの要因が重なっていると考えられます。
この記事では、その流れをできるだけかみ砕いて見ていきます。

進路を考える上で参考になると思いますので、
薬学部が気になっている方は是非読んでくださいね。
薬学部の人気低下!その現状とデータ

まずは、薬学部が人気低下と言われている理由と実態について見ていきましょう。
近年の私立薬学部では志願者が減少している!
薬学部を受験する志願者の数は、日本私立薬科大学協会の調査によると減っていることが明らかなんです。
2025年度の私立薬科大学の総志願者数は7万0381人でした。
前年度より1464人減で、3年連続の減少です。
しかも、増えた大学は61校中24校にとどまりました。
全体としては、受験生の母数が細っている流れが続いていると言えそうです。 yakuyomi.jp
さらに、文部科学省の2024年度調査では、6年制薬学部全体の入学定員充足率は90.0%でした。
100%に届いていない時点で、すでに全体として定員を埋め切れていないことがわかります。
「一部の大学だけの話」ではなく、薬学部全体の構造問題と言えると思います。 文部科学省
少し前の東洋経済の記事でも、私立薬学部の志願者減少が強く取り上げられていました。
2023年度の私立薬科大学の志願者数は7万4826人で、前年より1799人減だったと紹介されています。
つまり、2023年度も減少、2025年度も減少です。
このようにデータをつなげて見ると、近年は薬学部の人気は低下しているということがわかります。 東洋経済オンライン yakuyomi.jp
リーマンショック後の薬剤師ブームとその終焉
では、なぜここまで変わったのでしょうか。
大きな転機としてよく挙げられるのが、リーマンショック後の就職不安です。
2008年の金融危機のあと、景気悪化で就職難が意識されるようになりました。
その中で、資格職である薬剤師は
「手に職がつく」
「比較的安定している」
という期待を集めました。 東洋経済オンライン
実際、東洋経済の記事では、2011年から志願者が急増し、2013年から2017年の5年間は入学志願者数が10万人を超えていたと紹介されています。
これはかなり強い追い風でした。
薬学部人気のピークは、景気不安の裏返しでもあったと見てよさそうです。 東洋経済オンライン
ただ、そのブームは続きませんでした。
受験生や保護者が冷静になって、
「6年制で学費負担が重い」
「入ってからも進級や国試が大変」
といった現実を見るようになったためです。 東洋経済オンライン 厚生労働省

私はこれに加えて、大学がブームに乗って
学部を作りすぎたということがあると思います。
これについては別記事でも書いているのでのぞいてみてください。
私立薬学部・定員割れの実態

薬学部は定員割れしているの?
その実態や理由を解説します。
定員割れしている大学はどこ?特徴は?
2025年度の私立薬科大学では、6年制の定員充足率が0.91でした。
しかも、6年制で定員を満たしていない大学は30校と、全体のほぼ半数に達しています。
これはかなり重い数字です。yakuyomi.jp
定員充足率が特に低かった大学としては、徳島文理大0.29、城西国際大0.31、湘南医療大0.37、千葉科学大0.43、松山大0.43、日本薬科大0.47などが公表されています。
文部科学省の2024年度調査でも、徳島文理大学30.0%、姫路獨協大学33.3%、九州医療科学大学38.0%など、かなり厳しい数字が確認できます。
もちろん年度差はありますが、低充足の大学が複数あること自体は共通しています。 yakuyomi.jp 文部科学省
こうした大学に共通しやすい特徴としては、都市部の超人気校ではないこと、学部の知名度で競争が激しいこと、受験生が集まりやすい大都市圏に比べて立地面で不利になりやすいことなどが挙げられます。 yakuyomi.jp 厚生労働省

個人的には、ブームに乗って開設された新設校が、
定員充足率が低い傾向にあると思っています。
定員充足率の低下が大学経営に影響!
定員割れが続くと、いちばん先に響きやすいのは学費収入です。
私立大学は、学部運営を学納金に大きく依存する面があります。
薬学部は実験、実習、設備、教員配置などにお金がかかりやすい学部です。だからこそ、入学者が減る影響は小さくないと考えられます。 文部科学省
実際に、募集停止へ進んだ大学も出ています。
姫路獨協大学は、近隣大学との競争激化、18歳人口の減少、経済事情の変化などで定員充足の改善が見込めないとして、2025年度入学者から薬学部の募集を停止しました。 姫路獨協大学
医療創生大学も、入学定員の充足が見込めないとして、2026年度以降の新入生募集停止を公表しました。
さらに城西国際大学も、少子化や受験環境の変化、志望動向の変化を理由に、2027年度以降の学生募集停止を決めています。
募集停止は噂話ではなく、すでに大学公式で出ている現実です。 医療創生大学 城西国際大学
地域格差による志願者偏在
一方で、すべての大学が同じように厳しいわけでもありません。
2025年度は、東京理科大が757人増、星薬科大が333人増、京都薬科大が309人増、昭和医科大が279人増、立命館大が205人増でした。
受験生が人気校や都市部に集まりやすい構図は、かなり見えてきます。 yakuyomi.jp
ここでややこしいのが、薬学部人気は落ちていても、地方では薬剤師不足が残っている地域があることです。
厚生労働省の報告書では、病院薬剤師の充足率は都道府県間で最大98.3%、最小54.0%、薬局でも最大112.4%、最小58.3%と大きな差がありました。
人口密度が低い地域ほど不足しやすい傾向も示されています。
つまり、全国で一律に
「薬剤師が余る」
とは言い切れないわけです。 厚生労働省
しかも、同じ報告書では、勤務地が出身地である割合が、病院薬剤師で約7割、薬局薬剤師で約5割とされています。
これはかなり重要です。
地元出身の学生が薬学部へ進み、そのまま地域に残る流れが強いということです。
なので、地方大学の志願者減は、その地域の将来の薬剤師確保にも響く可能性があります。
薬学部で新設・定員増抑制が進む理由
ついに国から定員増の抑制の方針が出されました。
文部科学省による6年制薬学部の新設・定員増抑制方針
こうした状況を受けて、文部科学省は6年制課程薬学部の新設や定員増について、抑制方針を制度化しました。
2025年度に開設される大学等の新設や、既設大学の収容定員増加から適用されています。
簡単にいえば、今後は
「とりあえず増やす」
が通りにくくなったということです。 文部科学省
背景には、厚生労働省の検討会で、現状の定員を維持すると将来的な薬剤師の供給過剰や、待遇面を含む就職先確保の困難、ひいては優秀な学生確保の難しさにつながる懸念が示されたことがあります。
ようやく、薬学部の人気低下・学部が多すぎるという問題が、制度側に反映されたと見ていいと思います。 文部科学省
ただし、例外もあります。
地域で薬剤師確保が特に必要な区域については、都道府県計画に基づく場合に例外が認められます。
つまり国は、全体の供給は増やしすぎたくない一方で、地域偏在には対応したいわけです。
このバランスの難しさが、薬学部問題をさらに複雑にしています。 文部科学省
国家試験合格率をめぐる教育課題
薬学部の評価で避けて通れないのが、薬剤師国家試験です。
第111回薬剤師国家試験の全体合格率は68.49%でした。
新卒は86.25%ですが、既卒は41.33%にとどまります。
さらに設置主体別では、国立79.41%、公立82.92%、私立67.43%でした。
私立の中でも差はかなり大きいです。 厚生労働省
大学別に見ると、富山大学94.87%のような高水準の大学がある一方で、姫路獨協大学22.32%、第一薬科大学35.16%など、かなり低い大学もあります。
これは受験生が
「どこへ行っても同じ」
とは思わなくなるには十分な差です。 厚生労働省
合格率低迷が受験生離れを招くメカニズム
薬学部は6年制です。
学費も時間も大きく投資します。
その先に国家試験があり、合格できて初めて資格職としての強みが生きます。
だからこそ、国試実績が振るわない大学は、受験生から慎重に見られやすいです。 厚生労働省
しかも今は、受験生も保護者も情報をよく見ています。
大学別の合格率、進級率、定員充足率まで検索できます。
そのため、
「学費は高いのに、卒業や合格までの見通しが立ちにくい」
と受け取られると、志願者が離れる流れは自然だと思います。
文部科学省 厚生労働省
大学の財源縮小で十分な教育ができなくなる懸念
さらに心配なのは、定員割れが続くことで教育資源にしわ寄せが出る可能性です。
薬学部では、実務実習の支援、少人数指導、実験設備、国家試験対策など、手厚い教育が重要です。
もし入学者減で財政が細ると、こうした支援を維持するのが難しくなる大学も出てくるかもしれません。
これは断定ではありませんが、十分あり得る懸念だと考えられます。 文部科学省
逆に言えば、文部科学省が新設や定員増を抑制するのは、単に数を減らしたいからではなく、教育の質保証を守りたいからでもあります。
城西国際大学の公式発表でも、将来にわたり質の高い教育・学習支援体制を維持する観点が強調されていました。
学生が安心して学べる環境を残すには、無理な拡大より、持続できる規模が大事なのだと思います。 文部科学省 城西国際大学
まとめ
薬学部の人気低下は、ひとつの理由だけで起きているわけではありません。
リーマンショック後の薬剤師ブームが落ち着き、学費負担の重さ、国家試験への不安、大学ごとの実績差、少子化、そして都市部集中が重なった結果だと考えられます。 東洋経済オンライン yakuyomi.jp
その結果として、私立薬学部では定員割れが広がり、姫路獨協大学、医療創生大学、城西国際大学のように募集停止へ進む例も出てきました。
一方で、地方では薬剤師不足が残る地域もあります。
つまり今の薬学部問題は、
「人気が下がった」
で終わる話ではなく、
「どの地域で、どんな薬剤師を、どう育てるか」
まで含んだ再編の時代に入ったと言えそうです。 姫路獨協大学 医療創生大学 城西国際大学 厚生労働省
私個人としては、薬学部そのものの価値が消えたとは思っていません。
ただ、昔のように
「とりあえず安定だから」
で選ぶ時代ではなくなったのは確かです。
これからは、大学名だけでなく、国家試験実績、学費、進級支援、立地、卒業後の進路まで見て選ぶことが、ますます大事になるはずです。
薬学部を目指すなら、人気の有無より、
「自分が6年間を託せる環境か」
で考えていくのがいちばん大切だと、私は強く感じます。 厚生労働省 文部科学省


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